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最高裁判所第三小法廷 昭和43年(オ)302号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人森吉義旭の上告理由前文、同第一点、同第二点、同第六点および同第七点について。

上告人(原告、控訴人)は、被上告人(被告、被控訴人)に対し、東京都港区芝海岸通三丁目七番地同八番地同一一番地にまたがる本件宅地三二九五坪九上に存していた上告人所有の建物が占領軍により接収され滅失させられたことを理由とする損失補償金三〇〇〇万円の支払を求めるとともに、被告(被控訴人)東京都および被告(被控訴人)首都高速道路公団(以下「公団」という。)に対し、上告人が右土地上に借地権を有するとしてその確認および目的土地の引渡を求め、なお、右土地の時価は坪当たり一〇万円であつてその借地権価格はその七割相当額すなわち坪当たり七万円を下らないとして、予備的に、右引渡不能を理由とする損害金の内金三〇〇〇万円の支払を求める訴「東京地方裁判所昭和三六年(ワ)第六七八二号、以下「本訴」という。)(貼用印紙額一八万四一五〇円)を提起し、さらに、これとは別に、被告(被控訴人)神田トキ外三名に対し、本件土地につき上告人が借地権を有しているのにかかわらず被告神田らがこれを侵害していることを理由とする、右土地の各一部についての借地権の確認等、および、予備的に、その引渡不能を理由とする損害金合計三七四七万九四〇〇円の支払を求める訴(東京地方裁判所昭和三六年(ワ)第九三六七号(以下「別訴」という。)(貼用印紙額一万〇四五〇円)をも提起したところ、第一審は、右両訴につき口頭弁論を開始し、かつ、両訴の弁論を併合して審理したうえ、上告人に対し、両訴の訴状に貼用すべき印紙額が金一一一万〇二五〇円不足しているとの理由でその追貼を命じたが、上告人がこれに応じなかつたため、右両訴を不適法として却下する旨の判決をした。

そこで、上告人は、右第一審判決に対し、不服申立の範囲として被上告人に対する請求金額を二〇八七万円とし、その余の被告らに対する予備的請求たる損害金の額を従前より少額にしたほかは、借地権の確認等の請求をして、控訴の申立をした(貼用印紙額三一万二五二五円)が、その後右両訴のうち被上告人を除くその余の各被告に対する訴を取り下げたので、原審は、上告人の被上告人に対する控訴について、口頭弁論にもとづき第一審判決は結局相当であるとして控訴を棄却する旨の判決をした。

これに対し、上告人は、不服申立の範囲を被上告人に対する請求金額二〇八七万円として本件上告の申立をした(貼用印紙額三二万六〇三五円)ものである。

以上が本訴の経過である。

ところで、原判決がその説示の過程において被告神田トキ外三名に対する訴(別訴)について触れていないことは、所論のとおりである。しかし、本訴請求と別訴請求はその経済的利益を共通にしていることが明らかであるが、本訴と別訴とは各別に提起されたものであるから、その訴額および貼用印紙額は各別に定めるべきものである。また、右両訴が併合されて第一審判決が言い渡され、これに対して上告人が控訴の申立をした段階においては、併合請求は経済的利益を共通にしているから、両訴の請求のうちもつとも多額の請求である本訴の請求を基礎として訴額の算定をすべきものである。したがつて、本件においては、一・二審を通じ別訴の訴額および貼用印紙額を顧慮する必要はないのであつて、原判決が別訴について説示していないことは、原判決の違法をきたすものではない。

また、民事調停法一九条、民事訴訟用印紙法四条ノ二により調停の申立の手数料と同額の印紙を貼用したものとみなされる訴は、調停申立人が調停事件終了後所定の期間内に提起した訴に限るのであつて、調停申立人が調停事件終了前に調停申立と競合的に提起した訴はこれに当たらないと解すべきところ、上告人の被告東京都に対する本訴は、上告人が同被告を相手として申し立てた所論指摘の調停の終了前に提起したものであることが記録上明らかであるから、右調停申立の手数料として上告人が貼用した印紙額一万一七二〇円を同被告に対する本訴につき貼用されたものとみなすことはできないのである。

引用の判例は、本件に適切でなく、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第三点ないし第五点および同第一一点について。

訴額の算定に関する所論指摘の通知が裁判所を拘束するものでないことはいうまでもなく、また、訴額の算定にあたり、裁判所は鑑定その他の証拠調をすることができる(民訴法二八条)が、必ずしも鑑定その他の証拠調によりこれを認定しなければならないものではなく、その他の方法によりこれを認定することも許されるものであるところ、記録に徴すれば、上告人が本件土地の借地権価格として主張する前記金額が高額にすぎると認めることはできないから、これにもとづいて本訴の訴額が少なくとも被上告人に対する訴額三〇〇〇万円ならびに被告東京都および同公団に対する訴額二億三〇七一万三〇〇〇円の合計二億六〇七一万三〇〇〇円と認めうるとした原判決の判断は是認するに足りる。そして、訴額の算定は、訴提起の時を基準とすべきであるから、上告人がその後に請求の減縮をしたとしても、所論のように当初に貼用すべき印紙額がそれに応じて減額されるものではない。

なお、本件上告状に貼用すべき印紙額は、二一万一三〇〇円であるところ、上告人は、前記のとおり上告状に三二万六〇三五円の印紙を貼用しているから、その過貼分をもつて従前の不足印紙の追貼があつたとみうるかについて検討すると、本訴の訴額は、右のとおり少なくとも合計二億六〇七一万三〇〇〇円であり、したがつて、訴状に貼用すべき印紙額は一三〇万四九〇〇円となるが、上告人の貼用印紙額は一八万四一五〇円であるから、その不足額は一一二万〇七五〇円を下るものではない。つぎに、控訴申立の訴額は、少なくとも合計二億五一五八万三〇〇〇円であり(当初の訴額より少なくなるのは、被上告人に対する請求金額が訴提起当時は三〇〇〇万円であつたのが、控訴申立時は二〇八七万円となつているからである。)、したがつて、控訴状に貼用すべき印紙額は一八八万八八七五円となるが、上告人の貼用印紙額は三一万二五二五円にすぎないから、その不足額は一五七万六三五〇円を下るものではない。しかし、上告人は、前記のとおり、原審において被上告人以外の被告に対する訴を取り下げているので、被上告人に対する訴についてその不足印紙額を算出すると、このような場合当初貼用された印紙は各請求についての訴額に応じて按分されているものと解するのが相当であるから、訴額に応じた右不足印紙額は、被上告人に対するものとして、訴状につき八万九七一三円、控訴状につき一三万〇七六六円、合計二二万〇四七九円となる。したがつて、上告人が上告状に過貼した前記印紙額をもつてしても、なお被上告人に対する本訴に貼用すべき印紙の不足額が追貼されたものと認めることができないのである。

引用の判決は本件に適切でなく、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

同第八点および同第九点について。

第一審が口頭弁論開始後に上告人に対し不足印紙額の追貼を命じたことに所論の違法はなく、また、第一審が判決言渡期日を指定しないで判決を言い渡したことは所論のとおりであるが、その言渡は、適法に指定された口頭弁論期日において当事者双方出頭のもとにされたことが認められるから、判決言渡期日の明示の指定がないことをもつて第一審判決言渡手続に違法があるとはいえない。したがつて、原判決が右を理由に第一審判決を取り消さなかつたことは相当で、原判決に所論の違法はない。引用の判例は本件に適切でなく、論旨は、採用することができない。

同第一〇点について。

原審裁判官が所論の約旨をしたことは記録上これをうかがうことができないのみならず、記録に徴してみても、原審に所論釈明権不行使の違法があるとはいえない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中二郎 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝)

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